教育・学習におけるAI活用ガイド(作成中)
Artificial Intelligence in Teaching and Learning
人工知能
日本人大学生の14%がレポート等の作成に使っている*1― 2023年6月の調査では、すでに1億人がユーザ登録しているというAIチャット「ChatGPT」(大規模言語モデルをベースにし、調整を加えた言語生成エンジン=Generative Pre-trained Transformer)は、生成系AIと呼ばれています。これまでも、クイズや囲碁・将棋などでAIが人間を打ち破ったという事例(IBMの開発したワトソンや、GoogleのAlfa)がありましたが、深層学習という技術をベースにした特定のルール下での最適解を探索するようなタイプのものでした。今回は、人間の思考に近づいているように見え、より汎用性を備えていることから、大学教育のみならず既存の職業を揺るがすのではないかと言われています。
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ChatGPTなどの生成系AIに対抗するために、ハーバード大学デレク・ボク教授学習センターは、AIができることを見極めた上で教育設計や学習評価法を見直し、授業で問う目標を再考し明確にすることを訴えています*2。そこで提示されているのは、次の4つの選択肢(スタンス)です:
1. テクノロジーを無視する
2. テクノロジーを禁止する
3. テクノロジーを事実上使用不可能にする
4. テクノロジーを取り入れてみる
学問的誠実性の観点からは、もちろん禁止するスタンスを取ることもできますがが、授業設計・学習評価設計の工夫ができるかもしれません。たとえば、解答が一意に定まらないような、より創造的な課題を提示するなら、AIの力を学習の伴走者・相談者(copilot)として発揮させることも可能となるでしょう。
文部科学省は、初中等教育向け・高等教育機関向けに、次のようなガイドラインを出しています。
生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン
https://www.mext.go.jp/content/20230704-mxt_shuukyo02-000003278_003.pdf
大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(周知)
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2023/mext_01260.html
次項では、これらのガイドラインを参考に、授業での活用例について例示します。
AIを活用した授業を設計する(例)
授業設計で学生が活用するパターン
タスク化(調査前や学習活動の前に、小さな作業にタスクを分割)
アイディアの提出・検討(役割を与え、批評・提案・レビュー)
透明性の高い課題設計を行う
授業設計の注意点
定期試験や期末レポートなどで、AIが生成した文章をそのまま提出させることは、剽窃になります。
AIチャットに入力した情報は、他者に漏洩したり、さらなる学習データに二次利用される危険性があります。
北陸大学の学生向けガイドライン
1) レポートや卒業論文等で、ChatGPT 等の生成系 AI が生成した文章等を提出することは、本人が作成したものではないため、成績評価の対象とならないばかりか、北陸大学試験等不正行為規程に規定する不正行為に該当する可能性がありますので、十分注意願います。
ただし、例えば情報系科目で、これを利用して成果物を提出するよう授業担当教員から指示された場合などは、その指示の範囲内での利用を可とします。
2)授業において、これを使う際は、授業担当教員の指示の下、使用することとし、授業担当教員から使用を禁止あるいは制限されたときは、その指示に従ってください。
3)自己学修で使う際も、生成系AI により回答された内容が、不完全なものであることが多々ありますので、鵜呑みにすることなく、あくまでも学修の補助手段として捉え、自らの能力を高めるために利用するよう心掛けてください。授業で暗記した答えを 機械的に再現する、言い換えれば、検索すると容易に答えが見つかるような解答にとどまるのではなく、人間にしかできない創造的な力(ヒューマン・リテラシー)を発揮するよう日々の学修に取り組むことを期待します。
注) 2023年6月時点で、ChatGPT-3.5/4 (OpenAI) 、Bard(Google)、Bing AI(Microsoft)などを含む
まとめ
生成系AIにできること、できないことを見極め、授業の目的に沿った学習評価(課題)を設定しましょう。
講義によって単に知識習得とその再生の出来不出来を求めるのではなく、経験学習を取入れたり、現場や職業生活にどのように繋がるのかを意識した課題(真正の評価)を工夫してみましょう。
生成系AIに関する、授業設計支援に関するお問い合わせは、高等教育推進センター「授業コンサルテーション」まで
引用文献
大学生のChatGPT利用状況と能力形成への影響に関する調査結果(速報) DBER・大学生のChatGPT利用状況と能力形成への影響に関する調査研究 研究チーム, 2023.6.8
生成系AI利用状況についてのアンケートを実施(結果概要) 北海道大学高等教育研修センター, 2023.7.20
"Artificial Intelligence" Harvard Derek Bok Center(訳出は、川村拓也による)
参考リンク
<Generative AI>
ChatGPT・AI の教育関連情報まとめ 東京大学 吉田研究室
[翻訳]高等教育におけるChatGPT利用のクイックスタートガイド ユネスコ・森木銀河(訳)
生成AI教育ガイド 大阪大学
生成AIツールと教育についての教員向けガイド 大阪公立大学
Teaching with AI OpenAI
"AI in Higher Ed: Teaching in an Era of ChatGPT and other AI Tools" Northeastern University CATRL
"Teaching in the Age of AI" Coley, M., Johnson, S.M., Snay, P., Bandy, J., Bradley, J., Molvig, O. (2023). Vanderbilt University Center for Teaching.
<学習評価>
オンライン授業で試験と成績評価を⾏うための教授法 (ティップス) 名古屋大学教養教育院
オンラインで学習を評価するための10のポイント 大阪大学教育学習支援部
オンラインで、学習をどう評価するか 京都大学Teaching Online
ニューノーマルの学習評価をどう考え、実践するか[HTML] [PDF] 山田剛史、大学教育と情報 2021-1, 16-18
学習状況の把握と小刻み評価の方法 北海道大学オープンエデュケーションセンター
中島英博編『シリーズ大学の教授法4 学習評価』玉川大学出版部(学内限定・電子ブック)
参考文献
杉森公一, 展望:AI時代の化学教育, 高分子, 72(2023-7月号), 338-339 (2023). 高分子学会
杉森公一, 巻頭言「ChatGPTに対抗する」CAHEニュースレター第10号, 2023.6.23
J.E. アウン(杉森公一ら共訳),『ROBOT-PROOF: AI時代の大学教育』 (2020). 森北出版